医療問題(YouTube)

肺炎

■定義

肺炎とは病原微生物により肺実質に起こる急性炎症である.

発熱やせきなどの症状を伴い,
胸部X線やCTで新たに出現した陰影を認める疾患である.

日本人の死亡率の第4位を占める疾患は肺炎であり,
85歳以上の高齢者では肺炎が死亡率の第2位となり,
治療薬として優れた抗菌薬を用いても高齢化社会が進むわが国では大きな問題である.


肺炎は一般に
市中肺炎community acquired pneumonia(CAP)と
院内肺炎nosocomial pneumonia(NP)に
分類される.


1.市中肺炎

市中肺炎とは、さまざまな病原体の感染に起因する,
肺実質領域を主体とした急性炎症を総称する.

一般的には,特別な基礎疾患を有しない比較的健常者が,
地域社会のなかで罹患するものを市中肺炎と称する.

厚生省の患者統計では,
外来受診呼吸器疾患症例のうち80%が感染症であり,
肺炎はそのうち1%程度を占める.


市中肺炎では
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),
マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae),
クラミジア(Chlamydia psittaciやChlamydia pneumoniae)などが
主な病原微生物である.


2.院内肺炎

院内肺炎とは,
病院に入院後48時間以上経過して発症する肺炎で、

基礎疾患を有する患者が
入院治療中に続発的に罹患する肺炎の総称である.


この院内肺炎は,

医療従事者や他の患者由来の菌の病院内伝播により
感染が成立する外因性のいわゆる“院内感染”によるものと,

患者の感染防御能の低下を背景として,
もともと患者が保菌していた菌が起炎菌となる内因性の感染とに2分される.

頻度としては後者が大多数を占めるものと考えられているが,
厳密に両者を鑑別することは容易ではない.


基礎疾患が重篤,あるいは全身状態が不良な症例ほど,
経過中に院内肺炎を併発する頻度は増大する.


また剖検肺でもかなりの頻度で肺炎像が認められており,
終末期感染としての院内肺炎の頻度は高い.


院内肺炎では
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などのグラム陰性桿菌や
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの
治療に難渋する細菌,特に耐性菌による感染が多く,
患者の基礎疾患も重篤で治療薬の選択も市中肺炎とは異なったものになる.



■病理・病態生理


基本的に,
感染症の成立は菌本来の毒力と
宿主の感染防御能のバランスにより決定される.

市中肺炎の場合は,
感染防御能の正常な健常宿主に対して,
それを上回る強い病原性を有する菌種,
常在性の乏しい菌種が感染することによって肺炎が成立する.

院内肺炎においては,
宿主の感染防御能が低下するために,
通常は病原性の乏しい弱毒菌,常在菌に
起因する感染が引き起こされることになる.


呼吸器は外界に開かれた臓器であり,
微生物の侵入が容易なためか,
肺炎の原因となる病原微生物は
他の臓器感染症と比較すると非常に多彩である.

多くの場合,
肺炎は経気道的な病原体の侵入を契機として成立するが,
ときには菌血症に続発する血行性散布によって
肺内に感染病巣が成立する場合もある.

さまざまな生体防衛(御)機構にかかわらず,
肺内に侵入した病原微生物が
肺葉全体に炎症を起こしたものを大葉性肺炎lobar pneumoniaと呼ぶ.

気管支と連続した肺胞にのみ
炎症がみられるものを気管支肺炎bronchopneumoniaと呼ぶ.

このような解剖学的分類は
胸部X線の所見としてよく用いられるが,
肺炎では原因微生物による分類がより重要である.


細菌性肺炎の場合は,
炎症の中心領域は基本的に肺胞腔であり,
浸潤する細胞は好中球が主体となる.

一方,クラミジアやウイルス肺炎では
肺胞腔よりもむしろ肺胞周囲の間質が炎症の中心となり,
浸潤する細胞もリンパ球などが中心となる場合が多い.


肺炎で最も頻度の多い起炎菌は肺炎球菌である.
肺炎球菌のアドヘジンと
ヒトの鼻咽頭上皮細胞のレセプターが
特異的に接着して肺炎球菌の定着が起こる.

定着した肺炎球菌は
ウイルス感染や喫煙で
気道の線毛運動によるクリアランス機構が障害されると,
細気管支や肺胞腔内に吸入され肺炎が起こる.

特にウイルス感染により産生されたサイトカインが
肺胞上皮細胞の血小板活性化因子(PAF)受容体を発現させ,
これに肺炎球菌が結合して肺胞壁へ浸潤する.

肺炎の初期には肺胞腔内へ好中球の浸潤像がみられるが,
肺炎球菌が補体を活性化し,
炎症性サイトカインが産生され,
毛細血管から好中球が遊走する.

莢膜を有する肺炎球菌は
好中球の貪食を回避し,
増殖して細菌性肺炎へと進展する.



■臨床所見


院内肺炎の臨床症状は
基本的には市中肺炎と同様であり,
喀痰,咳嗽,発熱,胸痛,息切れなどが重要である.

ただし,院内肺炎の場合には,
その患者背景に意識障害,
気管内挿管や気管切開,
ステロイド使用,外科手術など
さまざまな因子がかかわってくるために,
典型的な症状が前面に現れない場合も多く,注意が必要である.

炎症反応は一般に亢進するが,
程度としては細菌性肺炎のほうが
非定型肺炎よりも高度なことが多い.

また非定型肺炎においては,
一過性の肝機能障害やCKの上昇を伴う場合も稀ではない.


1.細菌性肺炎
 
肺炎球菌などの細菌により起こる,
典型的な肺炎の症状としては,
急激に出現する発熱やせき,喀痰であり,
時に胸痛を伴う.

胸部の身体所見では,
打診上濁音が認められ,
触診で声音振とうの増強,
聴診で気管支呼吸音やラ音が聴取される.

院内肺炎の一般的な胸部聴診所見は,
特に市中肺炎と異なるものではなく,
吸気時優位の湿性ラ音を聴取することが多い.

ただし,
ウイルス肺炎やカリニ肺炎などでは,
ほとんどラ音が聴取できない場合も稀ではない.


2.非定型肺炎
 
マイコプラズマやクラミジアなどによる
非定型肺炎は,より緩徐に発症する.

乾性せきが特徴であり,
頭痛や筋肉痛,全身倦怠感,
はきけ,嘔吐,下痢などの呼吸器外症状がみられる.

胸部X線所見に比較し,胸部の身体所見に乏しい.


レジオネラ肺炎では比較的徐脈がしばしばみられ,
中枢神経症状,腎障害,肝障害,低ナトリウム血症などを合併する.

マイコプラズマ肺炎では
多形滲出性紅斑や溶血性貧血,脳炎などを合併する.

Chlamydia pneumoniae肺炎では
咽頭痛,嗄声,喘鳴が比較的多い.



■検査所見

肺炎を疑った場合には,
まず胸部X線を撮影し,
陰影が認められれば肺炎として,
重症度の判定や病原微生物の検索のための,
また他の疾患との鑑別のための検査を実施する.


1.胸部X線およびCT


細菌性肺炎では air bronchogram(気管支含気像)を伴う
区域性の consolidation(硬化像,融合像)を呈する場合が多い.

非定型肺炎では,
ときに非区域性のすりガラス様陰影,粒状影,線状影,網状影などが
中心となる場合が多い.


浸潤影の部位と広がりを決定する必須の検査であるが,
胸部X線で陰影の有無が判明しないときには
胸部CTが役立つ場合がある.

胸水の存在や空洞形成なども観察する.

大葉性肺炎では均等な陰影consolidationや
気管支透亮像air bronchogramを認める.


2.血液生化学検査および血液ガス検査


白血球数やCRP,赤沈,ムコ蛋白などの
急性相反応の上昇は炎症の反映であり,

細菌性肺炎では白血球増加が特徴であり,

非定型肺炎では
白血球は一般に増加せず,
また,ASTやALTなどの酵素の上昇がしばしばみられる.

マイコプラズマ肺炎では
寒冷凝集素の上昇も特徴的である.


肺炎の重症度を判定する場合,
白血球の著明な上昇や低下,
CRPの著明な上昇,
動脈血液ガスの酸素分圧(PaO2)の低下なども目安となる.


3.病原微生物の検出法


肺炎を診断し,
また妥当性の高い治療を進めていくためには,
起炎菌を適切に把握することが重要である.

その際に中心となるのは,
喀痰をはじめとする気道検体の細菌培養であるが,
培養結果が得られるまでには通常数日間を要し,
分離培養が困難な病原体も少なくない.

痰から病原性の高い菌が 106〜7CFU/ml 以上分離された菌は
起炎菌の可能性ありと評価するが,
喀痰中には常在菌の混入が不可避であり,
市中肺炎の起炎菌の多くは,上気道への常在性を有しているため,
分離菌をそのまま起炎菌と機械的に判定することはできない.

したがって,
培養検査のみに依存するのではなく,
必要に応じて各種検査を組み合わせて判断していくことが重要となる.

なかでも塗抹標本のGram(グラム)染色は,
治療開始の時点において情報が得られ,
好中球による菌の貪食像など
起炎性に関する重要な情報が得られる場合もあるため,
細菌性肺炎の診断にあたっては非常に重要である.


非定型肺炎においては,
分離培養,塗抹標本の観察とも容易ではないため,
抗体価の測定やPCR法などが補助検査として重要となる.


市中肺炎の起炎菌の最終的な判明率は
せいぜい50%程度であり,

一般臨床においては
起炎菌不明のまま治療にあたらねばならない場合がむしろ多い.


1)喀出痰 

喀痰の細菌学的検査は基本であるが,
口腔内常在菌による汚染があるため,
よい検体の採取が重要である.

膿性痰を確認して,そのグラム染色を行い,
弱拡大の100倍で観察し,
1視野に扁平上皮が10個以下で好中球が25個以上あれば,
常在菌による汚染が少なく,
肺炎の病巣から得られた検体として塗抹による菌の観察
(グラム陽性菌か陰性菌か,球菌か桿菌か)を行い,
培養検査へと進める.

このような喀痰のグラム染色所見の感度と特異性は高く,
起炎菌の推定に役立つ.


2)経気管吸引transtracheal aspiration(TTA):

口腔内常在菌による汚染を防ぐための侵襲的な検査法で,
気管の輪状軟骨の上から経皮的に気管を穿刺し,
検体を吸引する方法である.

しかし,気管や気管支に定着する菌が混入する可能性は残る.


3)経皮的肺吸引 

完全に上気道の菌の汚染を防ぐ方法であり,
菌が分離されれば起炎菌としての特異性はきわめて高い.

X線透視下ないしCTガイド下に肺炎の部位を経皮的に細い針で穿刺し,
検体を吸引し,培養する.

血痰や気胸の合併する可能性があり,注意を要する.


4)気管支鏡を用いた検査法(気管内採痰,気管支肺胞洗浄;BAL):

日和見感染症としてみられる肺炎や重症肺炎では,
病原微生物を検出するための,
比較的安全に行える侵襲的検査法である.

得られた検体は迅速にグラム染色(一般細菌)や抗酸菌染色(結核菌),
レジオネラの直接蛍光抗体法,
ゴモリーメテナミン銀染色(真菌やニューモシスチスカリニ)を実施する.

さらに培養を行い,
気管支肺胞洗浄液で定量培養により,
103cfu/mlの細菌が検出されれば,起炎菌としての意義が高い.


5)血液培養 

肺炎患者では
必ず2か所以上の異なる血管から採血を行い,
血液培養を行う.

特に肺炎球菌では敗血症を合併しやすく,
血液から培養されれば,起炎菌としての意義がきわめて高い.


6)血清学的診断法 

マイコプラズマやクラミジア,ウイルス感染症では
抗体価の上昇(ペア血清で4倍以上の変化)により,病原微生物と推定する.

レジオネラ肺炎では
患者の尿中からレジオネラ抗原が高い感度で長期間検出される.



■診断・鑑別診断

発熱と呼吸器症状があり,
胸部X線で新たに出現した陰影があれば,
肺炎として抗菌薬による経験的治療を開始する.


病原微生物が推定できれば,
それに対して抗菌活性の強い薬剤を投与する.



■治療

1.市中肺炎 

市中肺炎の治療に際して重要なことは,
外来で治療をするか,
入院させて治療をするか決定することである.

高齢者や
肺炎の経過に影響を及ぼす合併症や基礎疾患を有する患者,
経口摂取のできない患者,
頻脈,頻呼吸,低血圧,低酸素血症,意識レベルの低下などを認める患者では
入院による治療が必要となる.


外来では経口薬による治療を,
入院では点滴静注による治療が行われる.


Gram染色などで
起炎菌が当初から推定できる場合には,
その菌種に応じた薬物を選択することが基本となる.

起炎菌不明の場合は,
治療開始の時点で得られる臨床像などの情報から,
まず一般細菌性肺炎か非定型肺炎かを判断して,
初期投与薬物を選択することが重要である.


細菌性肺炎においては
第一選択薬はβ-ラクタム薬である.

市中肺炎で一般細菌性肺炎が疑われる場合,
起炎菌不明の場合は,
肺炎球菌を目標に薬剤を選択する.

したがって,
ペニシリン系抗菌薬が第1選択であり,
そのほかにセフェム系抗菌薬も選ばれるが,
わが国では特にペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の増加が問題となっている.

ペニシリン高度耐性とは
最小発育阻止濃度(MIC)が>1.0μg/mlであり,
ペニシリン中等度耐性は0.1から1.0μg/mlを意味する.

また,マクロライド耐性肺炎球菌の増加も著しく,
耐性の肺炎球菌に対しても
ペニシリン系抗菌薬の注射剤であれば,
十分な濃度が肺炎の局所で達成されるため,
有効であり,第1選択となりうる.


非定型肺炎では
マイコプラズマやクラミジア,レジオネラなどが原因となっていることが多く、
β-ラクタム薬は一般に無効であり,
マクロライド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬,
フルオロキノロン系抗菌薬が有用である場合が多い.


2.院内肺炎 

院内肺炎の治療には,
緑膿菌などのグラム陰性桿菌に対して
第三世代セフェム系抗菌薬やカルバペネム系抗菌薬が選択される.

βラクタム系抗菌薬とアミノ配糖体の併用療法も行われる.

黄色ブドウ球菌では,
半数以上がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であるため,
その治療にはバンコマイシンやテイコプラニンなどの
グリコペプタイド系抗菌薬やアミノ配糖体の中のアルベカシンが選択される.

病原微生物が真菌の場合には,
アムホテリシンBやアゾール系抗真菌薬が,

ウイルスの場合には
アシクロビルやガンシクロビルなどの抗ウイルス薬が選択される.


重症型の院内肺炎において,
治療開始時点でその起炎菌を絞り込むことが困難な場合には,
広域抗菌薬や抗真菌薬の組み合わせによる経験的治療としての
初期治療が開始されることはやむをえない.

しかし院内肺炎においても,
基本となるのは起炎菌を見極めたうえでの
適切な抗菌薬の選択であることを忘れてはならない.

患者の状態や病勢によっては,
むしろ発症後早期に積極的に気管支肺胞洗浄(BAL)などを試みて,
病原菌の把握に努めることも選択肢として検討すべきである.


院内肺炎が発症する根本にあるのは,
患者の全身状態の低下に起因する感染防御能の低下である.

したがって,このような症例においては,
抗菌薬単独による治癒をはかるのではなく,
抗菌薬投与で病勢を抑えつつ,
その間に栄養対策,免疫不全の改善,異物除去,ドレナージなどの
補助療法を積極的に施行し,
全身状態も含めた総合的な病態の改善を目指す必要がある.

こういった補助療法は,ときとして抗菌薬の選択よりも重要となる場合もある.

タグ:肺炎
posted by drk119 | Comment(2) | TrackBack(2) | 呼吸器疾患

急性カタル性上気道炎(かぜ症候群)

■定義


 急性カタル性上気道炎(かぜ症候群)は,多種類の病原による上気道のカタル性炎症の総称であり,鼻閉,鼻汁,咽頭発赤,発熱などを主徴とし,主に急性鼻炎や咽頭炎の形を取る急性呼吸器感染症である.多くは全身症状が軽微で予後もよく,2〜5日程度で改善するが,乳幼児や高齢者,重篤基礎疾患保有例では,種々の合併症を併発して予後が不良となる例が時にみられる.年間を通じてみられるが,秋〜冬に流行が多い.誘因として,個体の条件(免疫不全,脱水,疲労,飲酒,喫煙など)や環境の変化(乾燥,寒冷)が重要である.




■病原体


 病原の90%前後をウイルスが占める.ライノウイルスが最も多いが,判明しているだけで113以上もの血清型があり,流行を起こしやすいものは限られている.ライノウイルスは,ピコルナウイルスに属し,単鎖RNAで,鼻あるいは目に侵入し定着する.線毛運動によりアデノイドに移行し,リンパ上皮細胞のICAM−1(CD54)分子を介して感染する.最適の増殖温度は33−35℃なので,上気道での増殖に限られる.潜伏時間は8−12時間ときわめて短く,平均有病期間は1週間である.症状はくしゃみ,鼻汁,鼻閉,咽頭痛,喉のかゆみ,嗄声,咳,頭痛,筋肉痛,倦怠感,熱感,寒気などである.インフルエンザに比べ,全身症状や咳は軽い.また副鼻腔炎の合併頻度が高く,炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6,IL-8)の産生も鼻汁で認められる.


 次いでコロナウイルスが多い.エンテロウイルスに含まれるコクサッキーウイルスA,B群やエコーウイルスも多く,次いでアデノウイルスやRSウイルスも多い.ウイルス以外では,肺炎マイコプラズマ,肺炎クラミジア,細菌による.




■頻度
内科領域の日常臨床では最多,冬期間に多い.
80%以上はウイルスによる.ほぼ,ライノウイルス,コロナウイルス,コクサッキーウイルス,エコーウイルス,アデノウイルス,RSウイルス(RSV)の順で多い.マイコプラズマ,クラミジア,細菌も一部関与する.




■病態


 他の患者からの飛沫感染により,ウイルスが上気道の粘膜上皮細胞に付着,侵入,増殖して感染が成立する.上皮細胞は変性・脱落・壊死し,二次感染細菌が付着しやすくなる.

 低温・低湿の条件が揃うと感染が成立しやすいが,エンテロウイルスのように夏かぜを起こすものもある.

 ライノウイルスやコロナウイルスは主に上気道粘膜の線毛を侵し,これが脱落すると,一般細菌が付着しやすく,細菌二次感染が成立しやすくなる.

 アデノウイルス3型は結膜にも急性炎症を起こしやすく,エンテロウイルスはヘルパンギナや手足口病,無菌性髄膜炎,発疹,軽い麻痺症,眼感染,下痢症などを起こしやすい.

 RSウイルスやパラインフルエンザウイルスは下気道を侵しやすく,乳幼児に重症の細気管支炎や肺炎を起こすことがある




■臨床症状


1.普通感冒(common cold)

 臨床症状は,起因ウイルスが異なっても似通っており,鼻炎症状が緩徐に発現,鼻咽頭不快感・乾燥感,くしゃみ,鼻閉,水様鼻汁が分泌される.

 ライノウイルスやコロナウイルスによる感染ではこれらの症状が2〜3日出現するのみで無熱の例が多く,発熱も37℃台にとどまる.しかし,乳幼児や高齢者では重症化する例もあるので,注意を要する.

 夏かぜのエンテロウイルスでは腸管症状がみられたり,臨床症状・所見も多彩なので,他の感染症との鑑別に留意したい.

 アデノウイルスでは鼻炎にとどまらず,咽頭・喉頭炎,ヘルパンギナ,さらに下気道感染に移行したり,結膜炎を起こす例もある.

 RSウイルスやパラインフルエンザウイルスによる感染は,成人ではきわめて軽症であるが,乳幼児の初感染例では下気道感染や肺炎に移行することも多く,注意を要する.

 いずれのウイルスでも,加齢に伴って感染を繰り返すたびに症状・所見は軽度となり,無症候性となることが多い.


2.咽頭炎 

 鼻炎症状や下気道症状よりも咽頭症状が強い型であり,咽頭痛や時に嚥下痛を伴う.咽頭粘膜の腫脹・発赤のほか,咽頭後壁や扁桃に灰白色の滲出物,咽頭後壁リンパ濾胞の腫脹・発赤を認めることがある.全身症状はやや強く,発熱を伴う.アデノウイルスが最も多いが,細菌二次感染例ではレンサ球菌の関与が多い.

下記二つの特殊型がある.

1)ヘルパンギナ:
 高熱で発症し,咽頭粘膜(軟口蓋,特に前口蓋弓)に数個〜十数個の直径1〜2mmで灰白色の粘膜疹(丘疹→水疱→潰瘍と進展する)およびその周囲に紅暈が出現することが特徴である.

2)急性リンパ結節性咽頭炎:
 咽頭所見はヘルパンギナと似るが,粘膜の丘疹は潰瘍にまで進展せずに治癒するのが特徴である.


3.咽頭結膜熱 

 発熱,咽頭炎,結膜炎を3大主徴とし,アデノウイルス3型による例が多い.悪寒,頭痛,発熱で発病,せき,鼻汁もあるが,咽頭痛とともに咽頭粘膜の発赤,扁桃の発赤・腫脹,咽頭後壁リンパ濾胞の発赤・腫脹,頸部リンパ節の腫脹・圧痛などの咽頭炎の所見が強く,眼痛,眼灼熱感,羞明,流涙,眼脂などの濾胞性結膜炎の所見も強い.


4.クループ 
 喉頭病変が強く,発熱とともに嗄声,犬吠様のせきが出現する.重症例では呼吸困難,チアノーゼを呈するが,小児に多く,パラインフルエンザウイルスの例が多い.




■検査所見


血液検査:
 白血球数(WBC)やCRPは上昇しない.WBCはむしろ減少傾向,細菌二次感染例では増加する.


 ウイルスの分離と血清抗体価の有意上昇の確認はかぜ症候群の確定診断に不可欠であるが,ウイルス分離と血清抗体価の確認には最低でも5〜7日を要するので,現時点では臨床的に診断せざるを得ない.結局,診断は,症状・所見を総合した臨床診断によるが,今後は,ウイルス分離や抗原検出を迅速に行う病原診断を行うべきであり,分子生物学的診断の進歩も期待される.


 膿性痰が出現するなどの徴候で二次的細菌感染が疑われるときは,一般細菌の分離培養やさらには薬剤感受性検査を積極的に行う.




■鑑別診断


 鑑別すべき疾患には細菌性扁桃炎,細菌性気管支炎,異型肺炎,細菌性肺炎などがある.細菌感染では膿性痰,白血球数増加などが鑑別の目安となる,異型肺炎はマイコプラズマやクラミジアが関与するので,ウイルス感染と同様に,検査成績があまり動かずに臨床症状や身体所見が強いため,慎重に鑑別する.




■治療の基本方針

 抗ウイルス薬はいまだ不十分なので,対症療法(解熱・鎮痛薬,非ステロイド性抗炎症薬,蛋白分解酵素製剤)が基本である.含嗽薬,鎮咳去痰薬,抗ヒスタミン薬を考慮する.一般療法(安静,保温・保湿,栄養補給,脱水予防,入浴制限)も重要である.


 小児において,溶連菌感染の疑いが強い例は咽頭培養後,10〜14日間、ペニシリン系抗生物質投与を要するする.


 成人で,膿性痰の出現など細菌感染の可能性が強い例は培養を行い,基本的にはβ-ラクタム薬,慢性呼吸器基礎疾患保有例はニューキノロン薬を投与する.


 乳幼児,高齢者,妊婦,慢性呼吸器疾患・心疾患・糖尿病保有例などは細菌二次感染から肺炎を起こして重篤となる例があり,注意が必要である.
posted by drk119 | Comment(1) | TrackBack(1) | 呼吸器疾患
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